※真里亞と楼座の日常話。
真里亞×楼座
===================================



気分は最悪。
 
 
「ママお帰り、お帰りー!」
仕事帰り、鍵を開けると待ちかねていたように真里亞が走ってきて私に纏わりついた。
鬱陶しいので払いのけて自室に向かう。真里亞は相変わらずめげずにまた私の方に向かってこようとするので
一瞥して「うるさいわねッ…」と低い声で唸ってからベットに倒れ込んで泣いた。
今日、仕事で大きな失態をしてしまい、先方との計画を無くなったも同然の状態にしてしまったのだ。
(私は馬鹿だわ、馬鹿、本当に馬鹿、馬鹿…!どうしてあんな失敗を、後少しで…、何で私ばっかり…ッ)
自分を責める。生暖かい涙で、視界がぼやけている。
唐突に後ろから抱きつかれたので電気にはじかれたように体を起こした。
「ママ具合悪い…?何かあった?うー…うー」
また「うるさい」、なんて言おうとして真里亞をじろりと見たら、
…娘の青い目が潤んでいるのに驚く。
「う、なんでっ、…あんたが泣くのよぉ…」
「……うー」
「何があったかなんて、…あんたの幼稚園児のアタマじゃあ分からないくせに」
真里亞は話さない。
なんだか空しくなってしまって私も俯いて押し黙る。
そのまま沈黙が続いて、私はどうしていいか分からなくなって。ちらちらと真里亞の方を伺う。

ふと、真里亞が私に手を伸ばしてきた。
「うー、ママ、どうぞ!」
「ちょっ、ぅ、何するの…っ真里亞!?」
その手は私の頭を掴み、ぐいぐいと自分の膝に押しつけようとするので私は思わず声を荒げて娘の手を振り払った。
そのまま睨むと、真里亞は少しだけ悲しそうな顔をしてから、すぐにいつもの無垢な笑顔を見せた。
「あのね!ママが悲しそうだからねー、
 
膝枕、してあげるの!」
「ひざ…、」
…娘の発言にぽかんとしてしまう。真里亞は続ける。
「うー?ママ、知らない?あのね、柔らかくて温かくて気持ちいいんだって。嫌なこと忘れちゃうんだって、
留弗夫伯父さんが言ってた!」
 
 
「何教えてるのよあの男ッ!」
「うー!?」
つい大きな声を出してしまったので真里亞はびくりと体を震わせてしまった。その反応に私は慌てる。
「あ…、ごめんなさい、私ったらその…。ま、真里亞、真里亞は悪くないのよ…?」
私が微笑んだのが嬉しかったのか安心したのか真里亞は満足げに笑うと誘うように手をひらひらと動かす。
「じゃあママ、どうぞ!」
しまった…!、悪くないと言った手前、拒否することは出来ないじゃない。
…とにかく今は真里亞に嫌われたくない。そんな一心で私は観念して、ゆっくりと真里亞に近づいた。
 
 
「ママぁ、どう?気持ちいいー?」
「……」
細い、折れてしまいそうな九歳の娘の膝は狭い。成長が遅い真里亞には女の肉付きなんて皆無だから、勿論全然気持ちよくなんてない。
でも、真里亞が小さな手でそっと私を撫でてくれたのは、
「ママの悪いこと、忘れた?」
と、微かに心配そうな声色で尋ねてくれたのは、きっと…、

「うん…そうね。気持ちいいわね…」
楼座は呟くと目を閉じた。
上では可愛い、私だけの真里亞が擽ったそうに笑っている。
…きっと、この子、本当に私のこと好きなんだわ。
 
 

 
 

(必死なの、あなたを愛したくて)





==================
ほのぼのを目指しました。
親子なのに、楼座は真里亞にものすごく気を使ってるように見えたので。


←BACK