※青年期の絵羽(捏造
Ep3ネタ
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「じゃあね、また明日…」
絵羽は小声で告げると、彼が電話を切るのを待ってから、受話器をそっと置いた。
父親に隠れての、真夜中の電話はとてもどきどきした。彼の話が面白くて絵羽はくすりと笑ってしまうから、
その度にきょろきょろと辺りを見回す羽目になったし、
自室に足早に帰る時だって、誰かに見つかるんじゃないかって。風が窓を叩く音に一々身をこわばらせた。

部屋に着いてから、几帳面にセットされたベットに倒れ込んで、きゅうっと枕を抱きしめる。
(明日、会えるのね。)
あの人はありのままの私が良いって言うけど、うんと綺麗にお洒落していこう。
そうそう、あの人がくれたヘアアクセをつけていこう。
紫にピンクの小さな花が散らされているそれはとても可愛くてすぐに気に入ってしまった。
私のブラウンの髪によく似合うの!

十日前から、彼と会うとき着ると決めていた服を当てて、絵羽は嬉しそうに鏡の前に立ってみる。


すると、
鏡に映った絵羽の後ろには、もうひとりの絵羽が映っていた。
もっともそれはセーラー服を纏い、未だ幼さの残る絵羽だったのだが、
そいつが非常に冷たい目で絵羽を見ているので、
彼女はなぜか必死で目を逸らそうとした。


「あなたは女になり果てたわ」
  心底失望した表情で若き日の絵羽は絵羽に言い放った。

鏡に向かい合った絵羽はそれを聞いて、どこか自虐的に笑いながら答える。
「……もちろん、勉強はちゃんとしてるわよ。必要だもの。
あなたが私を見てられないのもわかるわ。…でもねぇ、


お父様はこういう私を望んでいるのよ」


─あなたくらいの頃、私は魔法が使えて、
成績はいつも一番だった。
望みどおり生徒会長になった。どんな事だって、叶えた。
ねぇ、一目瞭然よ。私は兄より全部が全部勝っている人間だったの。
…それをお父様が、一度でも認めてくれたら、私はどんなに嬉しかったか!─



「…そぉ。それでいいのね。
あなたは子供を産んで、その子供に”全部”あげちゃうのね。
つまり"私"がやってきたことは全て兄の真似事と認めるのね絵羽。
…ヘソ噛んで死んじゃえばぁ…」
そう吐き捨てて、鏡から姿を消した小さな"私"は最後までとても悔しそうだったので、
私は「待って!、」なんて叫んで鏡に縋りつきそのままずるずると崩れ落ち、無様にも泣いた。
涙を手で拭ったら落ちた化粧が纏わりついて気持ち悪い。顔を拭けば白いハンカチが汚れてしまった、
あぁ、女の涙って黒くなるのね、なんてぼんやり思った。
…笑えるわけがない。




待ち合わせ場所には予定より三十分も早く来て待っていたので、
なんだかちょっとそわそわした様子の彼が近付いてくるのをいち早く見つける事ができた。
何だかちょっと嬉しい。手を振ったら、彼も私を見つけたようで
気恥ずかしそうにはにかんでいる。多分私もそうなのだろう。

「絵羽…さん、その髪似合っとるで?」
「ありがと…。やぁね、かしこまっちゃって。
”さん”はいらないって言ったわよ、

秀吉さんったら…」


照れているあなたも素敵よ。
早く手をつなぎたいわ。
…さっきからずっと頭の中で声が響いていて、すごく不愉快なの。
だからあなたの気持ちいい手で早く忘れさせて。早く。早く。



(意気地なし)
(意気地なし)
(意気地なし)
(意気地なし)
(意気地なし)
(意気地なし)
(意気地なし)
(意気地なし)
(意気地なし)
(意気地なし)
(意気地なし)
(意気地なし)



ピンクのキラキラ
(鏡の中に今はたった一人映って,
泣き続ける私のふわふわの服は、
気づいたらあっという間に乱れてしわがよって汚くなっている。

でもこれがありのままの姿だったの。本当は…、弱いんだわ)



”私”とのお別れは、近い。


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