※真里亞と楼座の日常話
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「うー、うー…寒い」
真里亞は自室のベッドで毛布にくるまりながら、ふるえていた。
昨日から熱っぽくて、学校から楼座の会社に連絡をしてもらったら、タクシーで家まで帰ることになった。
楼座は、迎えには来てくれなかった。
真里亞はくるまった毛布からちょっと顔を出して、楼座が壁にかけてくれたお気に入りの時計を見る。
真里亞が帰ってきたのは、午後の一時。今は7時。
楼座は未だ帰ってこなかった。
熱が上がってきたのだろうか、じわりと、刺すような寒気と吐き気が襲ってきて、げほげほと激しくせき込んだ。
小さな少女の体は大きく揺れる。
(ママはまだお仕事かなあ)
(早く帰ってこないかなあ)
(ママが帰ってくれば)
カーテンも閉められなければ電気も点けられない暗い部屋は、ぱっと明るくなって、それで真里亞は…、
(ひとりじゃなくなるの)
でも、楼座は帰ってこない。
もっと小さな時に楼座が仕事を休んでまで看病してくれたことを繰り返し思い出しながら、真里亞は耐えた。シーツをぎゅっと握る。
まくらが湿って気持ちが悪い。
体はがたがた震えたままで、止まらない。
 
 
 
 
ぼんやりした思考の中で、楼座の事ばかりを考える。
それらはどれも、優しいママの思い出ばかり。
記憶のなかのただ一点の曇りは、今朝の楼座の様子だった。
久しぶりに会えたから、随分と鮮明に覚えている。
朝から居間のテーブルに顔を伏せ、挨拶も返さず、
 
「馬鹿な私なんて、いらないんだわ…」
 
 
 
 
 
あなたがいれば
(そんな事を言わないで。泣かないで。
世界であなた程大きい人はいないよ)
 
 
 
 
 
(だから真里亞を見て下さい)










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